2013年05月25日

透明感を思い出す

ファインマンの自伝「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を読みました。
ファインマンとは、ノーベル物理学賞を受賞した科学者のことです。

ファインマンにまつわるエピソードは、以前から知っていました。
大学教授から招かれたお茶会で、上品な大学教授の奥さんが紅茶を出して「ミルクになさいますか? それともレモンになさいますか?」と聞いたところ「両方お願いします」と言ってあきれられたとか。

ノーベル賞の授賞式で、国王に失礼があってはいけないと思い、後ろ向きで階段を下りることがあるかもしれないと練習していたら、それを見た友人が気の毒がってバックミラーを贈った、とか。

ファインマンが、がんの手術中に大出血を起こしたことが職場の大学に伝わると、教え子の学生たちがこぞって救急センターに走り、ぜひ自分の血を使ってくれ! と言って献血したとか。

こういうエピソードを聞いて、ファインマンという人物に、透明感のようなものを感じていました。

koutya.jpg


でも、自伝を読んで、それは違うと思いました。
ファインマンは、ひと言でいうと「困った人」です。

ファインマンは、なんでも興味をもったものにはまって、すぐに上達してしまいます。

小さいころ、ラジオが壊れた人がいたので、なんとか直してやったところ、次々に修理の依頼が来るようになり、ラジオにすっかり詳しくなってしまいます。

この性質は、ずっと変わらなかったらしく、物理学が専門なのに生物学や数学に首をつっこんだり、ブラジルで打楽器が上手くなったり、錠前はずしをきわめて、どんな鍵もあけられるようになり、しまいには原子爆弾の詳細が書かれた書類が収めてある金庫の鍵まで開けてしまいます。

いたずら好きのファインマンですが、いたずらにもほどがあるってものです。

この人は、何もこわいものがないようです。
戦時中、原子爆弾の研究にたずさわっていたファインマンには、手紙などにも検閲が入るのですが、わざわざ暗号めいたものを書いていつも呼び出しを受けます。

奥さんも検閲を嫌っていて、いったん書いた手紙をばらばらにちぎってジグソーパズルみたいにして送ったら、検閲官に「われわれに、遊んでる時間はない!」って怒られます。
困った夫婦です。

ファインマンの自伝は、図書館では予約待ち必須。人気があります。
いろいろな、常識とか、形式とか、そういうものにとらわれないところがいいのかな。

相手が誰でもこわがらないで、ものを言ったり、行動したりするのも気持ちがいい。

自伝を読んでいたときは、えー? えー? って思いながら読んでいたけれど、やっぱりファインマンを思い出すときは、透明感のある人として思い出すんだろうな。そんなことを思いました。

今日は、これでおしまい。


posted by ふう at 14:24 | Comment(0) | 好きなもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月10日

クリップになりたい


今日は、クリップのおはなしです。
クリップ、とは、最近ぽっと出たばかりの流行りものでもなんでもありません。
あの文房具のクリップです。
会社のひきだし、家の中のなんか道具っぽいものを置くところに、
必ずちょろっとある、あれです。

このクリップですが、自分で買ったのではないものが必ず含まれています。
誰かの送ってきた書類、誰かの送ってきた手紙、それにくっついてきたものたちです。

今まで「先日送った書類についていたクリップを返却してください」と言われたことはなく、
また「要返却」と書いてあるクリップも見たことがないので、
クリップについて、みんな所有権というものをほとんど意識していないと思われます。

また、「P社はQ社の下請けだから、Q社にクリップを返してもらえなくて
P社は泣き寝入りしている」とか
「お金持ちのY氏にばかりクリップが集まる」という話は聞きませんから、
権力やお金の影響も受けない存在だと考えられます。

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細い金属を二重に丸めたら、ちょっと書類をはさむのに便利だよ、と気づいた人。
天才だと思います。

のちに「ダブルクリップ」という強敵が現れるのですが、
どんなに小さな「ダブルクリップ」が発売されようと、
あの「今、ちょっとだけ、とまっていて欲しい」という人間の、うつろいやすい、
そして、はかない願いをかなえるのには、クリップが最強なのです。

とまっていて欲しかったけど、今、外したい、とくれば、クリップは指で押されるだけで
紙をすべって簡単に外れ、わたしたちの欲求をかなえてくれます。

kumo.jpg

また、クリップは旅に出ます。

A社とB社の間を行ったりきたりしているクリップもあるでしょう。
回覧板の書類に使われて、町内をぐるぐる回っているクリップもあるでしょう。
遠くへの手紙に添えられて、飛行機や船に乗るクリップもあるでしょう。

Gさんの手元から離れ、Uさんのところへ行き、そこから県外のEさんのところへ行き、
さらにWさんの手に渡り、もうGさんからは関係のないクリップになったかと思いきや
WさんはGさんと趣味のサークルが一緒で、全国から集まる集会でなんと
クリップは再びGさんの手元に!
という誰も気づかない劇的な再会もあるでしょう。

主を決めず、権力やお金の力にも左右されず、自由に旅をしているクリップ。
でも、どんなクリップでも、必ず人から人へ渡されているということに、
温かみを覚えずにはいられません。
クリップは人類全体が共有している文房具、かもしれませんね。

今日は、これでおしまい。
posted by ふう at 11:12 | Comment(0) | 好きなもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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